2020年12月9日水曜日

店長小川の音楽うんちくリターンズ ~トレモロアーム~

どーも!店長の小川です!


先日のteamCOLOR×teesの配信ライブ企画”ミュージックエール”ご覧いただけましたでしょうか?

まだの方は以下のリンクからアーカイブが視聴できますので、お手隙に少しずつでも観ていただけたら幸いです。

(12/10訂正 肝心のリンクを忘れておりました。失礼いたしました。)


さてさて、前回からちょっと空いてしまいましたが、今回は

トレモロアーム”についてお話していこうと思います。

大ボリュームです。


まずトレモロアームというのはなんじゃいな?という方の為に軽く説明しますと、

エレキギターのボディ上、ブリッジ(弦が乗っている金属のパーツ)から伸びている棒(トレモロアームといいます)をつかんで音程をウィウィウィウィ~ンと揺らすような演奏を見たことがある方も多いかと思います。

今回はそれについてです。ニッチですねぇ~!笑


まず、ある程度音楽に触れている方なら疑問に思ったことがある方も少なからずいると思いますが、その名称について。

特にギターにおいてトレモロというのは同音反復といって、同じ音を小刻み連続的に演奏することで、要は右手で速くオルタネイトするマンドリン奏法とも呼ばれるようなものですね。

対してトレモロアーム。以前の記事でも登場したクリケット奏法のような特殊な奏法ではトレモロに近い効果は得られますが、基本的には同音反復ではなく音程の上下反復によってビブラートやピッチベンドの効果を生むための機構です。

なので本来は”ビブラートユニット”と呼称するのが正しいことになりますが、トレモロアームとかトレモロという呼称がすでに市民権を得てしまっているんですね。ややこしい!

ではなぜトレモロと呼ばれているのかといいますと、

後ほど詳しく説明しますが、Fender社の”シンクロナイズドトレモロユニット”というタイプのビブラートユニットのその名前からそう呼ばれるようになったようです。

つまり本来はクラクションやインターホン、ウォシュレット等のようないわゆる商標なのでFender社製のもの以外をトレモロと呼んでしまってはいけないんでしょうね。


というわけで、ここからはビブラートユニットと呼びつつ掘り下げていきます。

あまり知られていないエレキギターの歴史に深く関係するとある偉人のお話。


1930年代頃から弦楽器にマイクやピックアップを取り付けて音を増幅する技術が登場していく中で、ギターもエレキ化を始めます。

この頃一般にギターというと、いわゆるアーチトップギターが主流だったようです。

電磁式のピックアップを取り付けたアーチトップギターは”エレクトリックスパニッシュギター”と呼ばれていました。

ちなみに現在でもGibsonの人気シリーズ"ES”はエレクトリックスパニッシュの略ですよ!

さてこの頃ビブラートユニットはというと…

実はもう存在しているんです!

リュート属のギターですが(奏法の回を参照)、アーチトップギターはバイオリン属のようにボディエンドからボディトップに伸びたテールピースに弦を掛け、別にボディトップに設けたブリッジサドルに弦を掛ける構造を持っていたため、演奏中にテールピース部分を操作することで弦の張力を変化させてビブラートの効果を出す事は当たり前に行われていたようです。

1920年代頃から、それを容易に行う狙いでいろいろなビブラートユニットが各ギターメーカーから競って開発されていたというのが現在の機械式ビブラートユニットの始まり。

遅れること10年程、1930年代にギターのエレキ化が進む中で

最初のエレキギターといわれるRo-Pat-InRickenbackerフライングパンに続いて登場したエレクトリックスパニッシュギターに搭載されていたのが…

20年代からビブラートユニットの研究・開発を続け、当時Rickenbacker社のチーフデザイナーとして迎え入れられていたDoc Kauffmanというエンジニアが開発した”Vibrola”というビブラートユニット。

この”Vibrola”が世界で初めて特許取得をした機械式ビブラートユニットといわれており、ビブラートユニットの歴史の始まりでした。

その後ある時期まではRickenbacker社のギターにはKauffmanのビブラートユニットが搭載されるのでした。

とはいえまだ現代のビブラートユニットに比べれば幾分簡素な設計で、加工の精度もたかくはない為、ユニットを操作するとチューニングが崩れてしまう問題が付きまといました。

ちなみにKauffman氏はFender社の創始者Leo氏とは40年代頃から生涯の親友であり、Kauffman氏が90年に亡くなる際、彼の遺志はLeo氏に託されたとも言われています。(残念ながらLeo氏も翌年に亡くなってしまいましたが…)

さらにGibson社の看板モデル”Les Paul”。元々はLes Paulというギタリストのシグネチュアモデルであることは知っている方も多いはず。30年代にKauffman氏と出会ったLes Paul氏は、後に完成させるオリジナルギター”the Log”にKauffman Vibrolaを搭載したり、Gibson社と開発した自身のモデルにも搭載していたのでした。

そしていよいよ50年代に入り、再び歴史が動きます

現代の機械式ビブラートユニットの元祖”Bigsby vibrato tailpiece”の登場です。

Paul Bigsby氏が開発したこのビブラートユニットはKauffman Vibrolaよりは幾分安定しており、すぐにギタリスト達に受け入れられていきました。

the BeatlesのJohn Lennonも、愛用するRickenbackerからKauffman Vibrolaを外し、Bigsbyに乗せ換えて使用していました。

Kauffman Vibrolaと比べればチューニングの狂いも少ないですが、これ以降登場してくる様々なビブラートユニットも多少のチューニングの狂いは相変わらず各社課題として多様な創意工夫で挑んでいます。

このBigsbyの登場以降、様々な工夫を凝らしたビブラートユニットが大量に生まれていくこととなるのです。


ここからはBigsbyを含んだ現在使用される代表的なビブラートユニットを紹介していきます。


・Bigsby vibrato tailpiece

GretschやGibson、Fenderのテレキャスターなんかにもよく搭載されています。

現在実用されているビブラートユニットの中では最も古いとされています。

写真では手前側にあたる棒状のパーツに対して弦が半周程巻き付いた状態で掛けられ、奥の棒状のパーツの下をくぐった先でブリッジサドルに弦が乗る形となっていますね。

アーム(Bigsbyではハンドルと呼ぶそう)を操作すると弦が巻き付いているバーが連動して回転し、弦の張力を変化させるという仕組みなので、ブリッジサドルやナットの摩擦が大きい場合にチューニングの狂いが大きくなります。

弦の交換が少々面倒になることや、ベンド幅があまり大きくないという欠点もあります。

様々なタイプのギターに対応できるようにモデルが多数用意されており、取り付けもボディの加工が必要ないことが多いことから現在でも後付けのビブラートユニットとして高い人気があります。

また、基本的に大型で重量があるためボディバランスが変化しやすく、サウンドもBigsby特有の高域が強調されたサウンドになります。あえてそれを狙って搭載するBigsbyフリークも数多く存在します。


・Fender Synchronized Tremolo

主にストラトキャスター系のモデルに搭載されるタイプ。

伝統的なストラトキャスターでは6本のボルトでボディに取り付けられていますが、2本のアンカーで支持するものや、裏通しではなく弦を挟んで固定するロック式(Floyd Roseなど)など、派生して様々なビブラートユニットが登場しています。

基本的な構造としてはテールピースが存在せずブリッジサドルと一体になっているベースプレートごとアームで稼働させる仕組み。ボディ裏にはユニットが貫通しておりスプリングで張力を持たせてボディの表裏で張力を釣り合わせるような形となっています。

弦の摩擦が起きるポイントが少ない為、比較的チューニングも狂いにくいこともポイント。ロック式に至ってはナット側でも弦を固定する為、チューニングの狂いは限りなく少なくできるでしょう。

不用意に重量が増えにくいウェイトブロックは軽すぎると鳴りが悪いですが…)ことや、ベンド幅が大きく派手なアーミングが可能、モダンでテクニカルなギタープレイにはもはや必須といっても過言ではないタイプのユニット。

欠点としてはボディに対して大きなザグリ(ユニットに合わせてボディを彫り込む加工)が必要な為後付けには費用や時間を必要とすること、調整が不十分だと上手く機能してくれない、多くのモデルでは一本弦が切れるとスプリングとのバランスが崩れて残りの弦のチューニングが狂いやすいなど、ある程度の欠点もあります。

また、基本的にボディからブリッジ全体がほとんど浮いている為、ウッド材のトーンを活かしたサウンドは期待しにくいです。

今回、Floyd Roseのようなロック式はこのSynchronized Tremoloタイプと基本原理は似ているため進化系の一部とさせて頂いております。


・Fender Floating Tremolo

主にFender JazzmasterやJaguarや、他各社のそれに該当するモデルに搭載されるタイプ。

大きなテールピース、長いアームが独特なルックスを演出するこのモデル、欠点が非常に多い事で有名ですが、それを踏まえて余りある独特なビブラートユニットでもあります。

構造としてはアームを操作するとテールピースの弦が掛かっているプレートが連動して弦の張力を変化させるもので伝統的なものと大差が無いように見えますが、長めのアームから梃子の原理を上手く活用して動作する構造の為アーミングにさほど力を必要とせず、滑らかなアーミングが可能であることが大きな特徴といえます。しかもなんとロック機能付き

ブリッジサドルもユニーク。アーミング時の弦の摩擦によってチューニングの狂いが発生するのであれば、ブリッジサドルを稼働させて弦と一緒に動かしてしまおうというもので、ボディに取り付けられたアンカーとブリッジのパーツにわざと遊びを持たせてあるのです。これによってチューニングが安定したかというと…改善はあまり見られませんでした。

特有のポイントとしてはテールピースとブリッジサドル間の距離が長くテンションも低めな為、この間の弦が共鳴して独特な倍音を含んだサウンドが魅力ではあります。しかしカッティング等で音を止めた場合にこの部分の音が残ってしまうため、ミュートをするユーザーも多いですがこの場合独特なトーンも失われます。

さらに持病とまで言われる最大の欠点が。

Jazzmasterの名の通り、本来ジャズで使用する想定であり現在のロックやポップスで使用するような細い弦で使用する想定は無かった(そもそも細い弦は一般的ではなかった)のか、細い弦を張るとテンションが足りずピッキングによって弦がサドルから落ちるいわゆる”弦落ち”しやすいのです。Jaguarに至ってはさらにスケールが短いですから…

しかし様々なパーツによって対処が可能です。安心してください。

Buzz Stop Barというテンションバーや、Mastery Bridgeが一般的な対処法になりますね。

Tune O Maticタイプのブリッジにテールピースの距離を縮めて弦の角度を稼ぐことで弦落ちしにくくしたモデルも出ています。

さらにさらにもう一点不治の病があります。

アームの脱落です。

他のユニットはねじ式であったりロックができるものがほとんどですが、このタイプは基本的に差し込んでちょっとしたバネで引っかかるのみ

少し使えばゆるゆるになり、演奏中に行方不明になることも。

それでも愛されるFloating Tremolo、その理由はMy Bloody Valentineというバンドを聴けばわかるかも・・・?


・Fender Dynamic Tremolo

Fender Mustangタイプのギターに搭載されるタイプです。というか、Mustang以外に付いてるの見たことないかも…

構造としてはSynchronized TremoloとFloating Tremoloの合いの子みたいな感じで、Floating Tremoloの発展形と言われています。Floating Tremoloのテールピースとブリッジサドルが一体化し、アームのスプリングの機構がSynchronized Tremilo的、といったところです。

その名の通りダイナミックなアーミングが可能(ロック式のような豪快な領域には工夫は必要ですが)であり、Floating Tremolo譲りの少ない力でアーミングができるという優れもの。クリケットもお手の物!チューニングの狂いも比較的少ないタイプです。

でもあんまり使われない悲しきモンスター…


・Gibson Vibrola

Gibsonってあんまりビブラートユニットのイメージがない(ついててもBigsby)かもしれませんが、50年代にアーチトップギターのテールピースを延長したようなVibra Restというオプションを作ってみたんですね。ギター型のもあってかなりかわいい感じ。

その後、板バネを使ったビブラートユニットのVibrolaをLes Paulの発展形であるSGやフライングVなどに搭載します。

この板バネの副産物としてBigsbyとはまた趣の違う煌びやかなサウンドと豊かなサスティンも付与されます。

板バネを使ったビブラートユニットは珍しく、見た目も非常に高級感がありルックスの為に取り付けるユーザーもいるとか。

設計は非常にローテクな為ベンド幅も狭くチューニングは狂いやすいと言われていますが、Vibrolaを搭載したSGを愛用するexゆらゆら帝国の坂本慎太郎氏はチューニングが狂わないとインタビューで話したことがあり、多くのギタリストが震撼したとか…


・その他代表的なビブラートユニット(興味があったら調べてみてね!)

Mosrite Vibramute、Stetsbar、Kahler Tremolo System、Ibanez、Washburn Wonderbar、Steinberger TransTrem、Ibanez Edge、ChordBender など…




さてさて、ものすごいボリュームになってしまいましたがいかがでしたでしょう?

ギターを買って、同封されていたアームを付けたことが無いという方も少なくないと思います。

試しにちょっとつけてみたらなにか新しい世界が見えちゃったりするかもしれませんよ???

多様なビブラートユニットがありますが、それぞれ個性があってできること、できないことがあったり得意不得意があったりします。

自分の音楽にあったビブラートユニットを見つけてみるのもギターをより楽しむ方法の一つかもしれませんね。


ちなみに、少ないですがベース用のビブラートユニットもあります

ベーシストの皆さん!挑戦者求む!!!!



次回は”ケーブルの使い方”についてお話します。

お楽しみに!


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空洞です ‐ ゆらゆら帝国

サイケデリックなガレージロック、ブルース、鮮烈なファズギターと奇妙な風貌で人気を博した日本が誇るサイケデリックロックバンド。

人気の絶頂のさなか2010年、突如解散が発表されました。

2007年に発表されたこの”空洞です”以降、新曲のリリースなど新たな動きはなく、2009年に結成20周年を迎えた後の解散。その理由が

「完全に出来上がってしまった」

でした。

それまでの強烈なファズギターやサイケデリックなサウンドアレンジなどを一切廃したこのあまりに空洞な曲によってバンドが完成してしまった。ということらしい。

最後まで不可解で、気になるバンドでした。




それでは!

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